先日観た『ある人質』に触発されて、「デンマークの話があったなあ・・・」と思い、本棚から引っ張り出して読んだ。
デンマークの話よりも、やはり前者「後世への最大遺物」の方に触発されるところが大きかった。
僕は、亡くなった母親のこと、死んだ飼い犬のことを折に触れて思い出す。
そして、物質的にいないという意味での「無」を、何となく実感した気になる。
でも、離れて暮らしているときに、半径5m内の日常にはいないという意味での「無」と大差ない気がしないでもない。
ただ一つ確実なのは、「かつては存在したが、今は存在しない」ということ、しかし何かを残してくれたということである。
さて、「後世への最大遺物」は、内村鑑三の講演録である。
文字通り、人が死んで何を生きた証として残せるか?について、聴衆と対話するかのごとく進んでいく。
まず誰もが思いつきそうなものとして金を、ついで事業を、文章をと検討が続く。
これらを残すことの可能性について、残せるとして最大足りうるか?ということを丁寧に説く。
そして、これらを否定した後で、これなら誰しもが残せるのでは、しかも最大のものなのでは、ということを熱く語る。
じつに話が巧みで、わかりやすく、引き込まれていく。
著者の存在自体が、主張の正当性を裏付けていると言ってよいだろう。
だからこそ、130年近く前の講演録が今も売れるのだ。
これまで講演や講座に参加したり、本を読んだりしてきた中で、受け手をアジテートできる人間は極めて少ないと思っている。
内村鑑三がどういう人だったのか、改めて興味がわいた。
生きることに退屈を感じたり、疲れている人にはおススメの本である。